コラム お金の知識を高めるコラム Vol.82 1ドル=150円という円安から考えておかなくてはいけないこと(後編)

お金の知識を高めるコラム

Vol.82 1ドル=150円という円安から考えておかなくてはいけないこと(後編)

もう一つの「動き」とは、海外投資家の円に対する見方の変化です。

為替相場が変動する要因は多岐に亘り、1要因がどれほどのインパクトを持つかを言い当てることは難しいです。為替=「国力」というほど簡単なものでもありません。しかし為替相場参加者の間で、かつて「安全資産」「安全通貨」といわれた日本円に対する見方はずいぶん変化しました。それを最も物語るのは、<ドル円>ではなく<スイスフラン円>の動きです。

スイスは経済的にはGDPで日本の1/5の国です。軍事は国民皆兵の国として知られ、それなりの軍備を持ち、伝統ある国としての一定の政治力もありますが、大国とは言い難い国です。しかし、その通貨であるスイスフランは今でも「安全通貨」としての評価を保っています。

スイスフランは2000年には1フラン=60円ほどでした。しかし、2024年4月末では1フラン=171円程度まで上昇しています。ドル円が2000年には1ドル=100円でしたが、2024年には155円になっている以上に、スイスフラン円は動いているのです。

湾岸戦争、同時多発テロ、リーマンショックと、2000年代はブラックスワン的な出来事が起こると、為替市場ではスイスフランも日本円も「安全通貨」として買われました。しかし2020年以降、パンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ侵攻と危機的な出来事が発生すると、スイスフランには買いが入りますが、日本円が買い進まれる材料としては受け止められません。

過去30年の間に、日本は低成長とお粗末な政治が目立ち、評価を下げました。「アベノミクス」による円安誘導が成長率をかさ上げする唯一の方法のように語られてきましたが、円安に伴うインフレ圧力の増大という「負の側面」が図らずも日本を蝕んでいることをクローズアップする冷ややかな見方も拡大しています。

また、デフレの時代は資産運用しない方が良い時代でした。しかし、今や世界的に未曾有のインフレが進行しています。インフレの時代に何もしないで資金を置いておくことは資産の目減りを助長します。物価が上がると貨幣の価値は下落するからです。加えて日本は資源のない国です。資源高と円安が進めばインフレは国民生活に重くのしかかるようになるでしょう。そして、大企業は賃上げを実施する余力がありますが、中小企業は厳しいというのが現実です。(名目)賃金が物価上昇分を補って余りあるほど上昇することは見込めません。かつて喧伝された「資産フライト」よりも、大きな流れが始まっている可能性に気を付けておかなくてはなりません。是非、資産の通貨分散は心掛けてください。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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