コラム お金の知識を高めるコラム Vol.83 インフレ圧力は続く

お金の知識を高めるコラム

Vol.83 インフレ圧力は続く

2024年は、世界的な物価の上昇圧力が後退し、主要中央銀行が金融緩和・利下げに転じると期待されてきました。米国FOMC(中央銀行の政策を決定する会合)が毎四半期に公表する「経済予測」でも、3月の時点では年内3回の利下げが、6月の時点では年内2回の利下げが、予想として示されました。残り6カ月でFOMCは4回開催されます(7月、8月、11月、12月)。もし、4回のうち2回も利下げが実施されれば、これは決して緩やかなペースというわけではありません。
FOMCが発表する声明の内容を見ると、やはりインフレ圧力が緩和の軌道にないこと、目標であるインフレ率2%上昇への収斂には確信が持てていないことが明らかです。最近の経済統計では、雇用市場が安定かつ堅調であり、労働需給の引き締まり感は根強く、これが賃金の上昇を通じて、消費を支える構図が続いていることを示唆しています。このためFOMCは、今後数カ月の間は政策金利を据え置き、雇用情勢とインフレ圧力の推移を見守ることになると予想しています。

金融市場は年内2回の利下げ予測が示されたことで、金融緩和期待が維持され、ゴルディロックス(ぬるま湯)シナリオが再び力を得て、株式相場も債券相場も買われる展開となっています。ECBとカナダ銀行が0.25%幅で政策金利を引き下げたことも、主要中央銀行が利下げに転じるかのようなムードを醸成し、楽観的な見方を支える材料となっています。

しかし、欧州やカナダと米国の状況は異なるという点に注意が必要です。ユーロ圏経済もカナダ経済も、米国経済に比べれば景気後退に陥るリスクは大きいのです。今回ECBは、金利水準が景気のブレーキとして効きすぎてしまうことを危惧しての水準訂正と考えられます。今後、連続した利下げが必要となるかは、ECBですら見通せないとしています。

6月FOMCは、ECBやカナダ銀行の利下げの後に開催されましたが、政策金利は据え置かれました。経済成長に変調をきたすリスクとインフレリスクの狭間で、いかに金融政策を実行するかは大変難しい問題です。今年後半は、市場の急変に気を付けておくことをお勧めします。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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